前回のモニターハンガーの流れで、今回は手術用4Kモニターのお話です。
たかがモニターと侮るべからず、内視鏡手術では「モニターの画像=術野そのもの」、極めて重要な機器です。

金子耳鼻咽喉科では内視鏡システムにドイツKarl Storz社の4Kシステムimage1 Sを採用しています。
開院当初は標準画像から始まり、ハイビジョンになり、1年前から4Kになりました。
開院から5年足らずでこの変化。
画像技術の進化は早いです。

当院のモニターTM340

使っているモニターは4Kシステムと同じくドイツKarl Storz社のTM340
ただ中身はアメリカのNDS社のものです。
Storzからは他にTM341(旧モデル), TM342(現行品)というモニターもありますが、中身は両方とも日本のEIZO
EIZOの2機種(TM341, TM342)はモニターの性能に違いはなく、ただ入力ポートの違いが大きいそうです。

TM340(現行品・当院採用)TM341(旧製品)TM342(現行品)
OEM元NDS(米国)EIZO(日本)EIZO(日本)
輝度 (標準値)650 cd/m2350 cd/m2350 cd/m2
コントラスト比 (標準値)1700:11500:11500:1
入力端子12G-SDI x1
DVI-D x 2
DisplayPort x1
HDMI x2
3G-SDI x4
(Quad-3GにてUHD対応)
DVI-D x 2
DisplayPort x1
12G-SDI x1
3G-SDI x1
DVI-D x 2
DisplayPort x1
出力端子SDI (BNC) x1
(12G/6G/3G/HD-SDI)
DVI-D x 2
SDI(BNC) x4
DVI-D x 1
SDI 1(BNC) x1
(12G/6G/3G/HD-SDI)
SDI 2(BNC) x1
(3G/HD-SDI)
DVI-D x 1
モニター重量12.27kg11.2kg11.2kg

同じKarl Storzのモニターと言っても、中身がぜんぜん違うわけです。
今回はTM340とTM341を比較検討してみました。
日本のメーカーを応援したかったのですが、、、
結果は、米国NDSに軍配をあげました。

4Kの復習

4K_resolution

さて、4Kとは画面の横幅が約4キロ(4000)ピクセルある映像フォーマットの事です。
一般的な4Kは横幅3840ピクセルです。
ハイビジョン(2K)は横幅1920ピクセルです。
4Kはハイビジョンに比べて縦横2倍のピクセル数で、情報量としては4倍になるわけです。

ハイビジョンでもすごいのに、4Kすごい!
と思いきや、、、4Kテレビを買ったのに、全然良くないという声もチラホラ聞きます。
その理由は単純明快で「画質を決めるのは解像度だけではない」ということです。

画質を決める5要素

画質を決める5要素は以下になります。

  1. 解像度(平面解像度)
  2. 量子化(ビット深度)
  3. フレームレート(時間解像度)
  4. 色域
  5. ダイナミックレンジ(輝度)です。

4Kというと(1)の解像度だけの話になってしまいます。
他の4要素を無視してしまうと、一粒一粒のクオリティーが悪いという事ですね。
そうなると画質が悪くなるのは明白です。

細かい技術的なことは少々難しいので、私素人の理解を超えています(汗)
今回はポイントを、導入したモニターに関することに絞りたいと思います。

TM340は明るい

さてTM340の特徴とは何か?という事になるわけです。
色々なモニターを検討している際に
「TM340は、他に比べて明るいことが特徴」と言われました。
上記5要素のなかで(5)の輝度にあたります。
初めは良くわからなかったのですが、どうやらこれが大きなポイントのようです。
スペックの比較表を見ても、輝度・コントラスト比に差があるようです(赤字)。

BT.2020の設定モードがあります

colour_volume
Sony”What’s HDR”より引用

4Kモニターの性能の目安として「BT.2020対応」と良く記載があります。
上記左図の赤の三角の色域(rec.2020)をカバーできると、人間の認識できるほぼ100%を色を網羅すると言われているそうです。
少々ややこしいですがrec.2020とは5要素のうち「色域だけ」の話です。
BT.2020とは、輝度を除いた4要素をまとめた「規格」です。
ちなみに、BT.709はハイビジョンでの規格です。
BT.2020になるとBT.709に比べて色域の三角が格段に大きくなっています。

NDS Configuration
BT.2020 Configuration

TM340の設定画面(Color Correction)を見てみると、
NDS, BT.709, BT.2020の3つを選択できます。
NDS(上)では自由に画質調整ができますが、BT.2020(下)にすると調整不可。
つまり「規格で決まっているので調整する必要がない」という事です。

要するにBT.2020の規格にある程度、準拠しているのだと思います。
スペック表によると「140% of BT.709」
BT.709よりはるかに良いのはわかりますが、BT.2020のカバー率がどのくらいかは不明です。

※後日調べたところ、TM-340のBT.2020カバー率 74%と判明いたしました。
Karl Storz TM340は「BT.2020カバー率 74%」

画質には輝度も重要(HDR)

BT.2020のモードはTM340, TM341, TM342すべてに備わっています。
BT.2020は「輝度以外の4要素で決まっている規格」で、それは良いのですが、
実際には画質には輝度(=明るさ)は大変重要で、これがないと画質が一気に落ちてしまいます。
そこで、最近話題になっているHDRが出てきます。

BT.2020の色域図の右側が、色域に加えて輝度を考慮に入れた図になります(HDR)
色域に輝度(=明るさ)を加えると
明るいところはより明るく、暗いところはより暗く表現できる。
という事になるようです。

ちなみに輝度も考慮に入れた規格はBT.2100と言います。
「BT.2100 = BT.2020+HDR」です。
そんなことを頭に入れながら比較検討してみました。

TM340 vs. TM341

両方のモニターともBT.2020の設定ができます。
どれほど規格に準拠しているのかはさておき、
ある程度規格化されたものなので、あとは輝度が性能を分けている(はず)です。
TM340の方がスペック上では明るいという記載があります(表の赤字)。

で、比べてみたらどうかと言うと、、、「差は歴然」
TM340では、内視鏡で見た鼻内所見の粘膜や手術中の色合いなど「とてもとても自然」です。

では、TM340がHDR(BT.2100)に対応しているのか?
これは、メーカーに確認しても明確な回答は得られず「不明」。
しかし、少なくとも「モニターが明るい」という事は、高画質化に有利であることは間違いないようです。

12G-SDI入力があります

もう一つ注目すべき点は、TM340は12G-SDI入力に対応しているという事です。
比較表(青字)に記載していますが、EIZOのTM341とTM342の大きな違いは入力ポートに12G-SDIがあるかどうかです。
Storz image 1Sの4Kでの出力は「12G-SDI」か「display port(DP)」の2択です。
画質的には12G>DP
ちなみにTM340 vs. TM341では、公平を期すためDPを使って比較しています。
12G-SDIの詳しいことは、またの機会として、「BNC1本」これが大変良い。

4K画像の伝送としては12G-SDIが最強でないかと感じています。

まとめ

さてお値段ですが。
一般のテレビやPCモニターと比較すると「とても高い」です。
そして、多くの方がここをケチります。
モニターなんて、映ったらいいんじゃない?という考えです。
ここまで読んでいただいた方(読めた方?)には理解していただけると思いますが、 モニターには歴然とした性能の差があります。

ちなみに、今回はPCモニターの「ASUSのProArt-PA32UC」も比較検討しています。
「rec.2020カバー率85%、HDR」で、PCモニターの中では、ものすごく高性能な機種です。
が、手術には全く使えない画像レベルで比較対象にはなりませんでした。
用途が違うという事だと思います。

総じて言えることは、医療用モニターにはそれだけの価値があります。
内視鏡手術は、まさにそのモニターを見て手術します。
高性能なカメラシステム、手術の鋼製器具、手術支援機器などをそろえても、
「モニターの画像=術野」が悪いと、お話になりません。
術野を決定づけるモニター、ここにはいいモノを使いたいところです。

今回の検討では、現行機種TM342(EIZO)の12G入力での画質を見ていないので、そこを見てみたい!と個人的な興味があります。
今、購入を検討されている方はTM340 vs. TM342になると思います。
その際はぜひ12Gで比較検討を。
比較された方から、また感想など教えていただきたい、と思っています。
学会などで見かけたら声をかけてください!

画像の世界は奥深いです。

院長 金子敏彦

※わかりやすい解説のあるページです。
パソコン工房の解説
ソニーのHDR解説