少し前に「70度硬性内視鏡の持ち方」というテーマで投稿しました。
実際の手術操作中は手術モニターを見ており、内視鏡・鉗子の挿入口である鼻の穴を見る時間はとても少ないです。
前回投稿した様に内視鏡・鉗子を挿入していますが、手術操作中の内視鏡の位置はどうなのか疑問で検討してみました。

ClipchampでPicture in Picture

手術の全体像の撮影に使ったのはずいぶん前に買ったLogicoolのwebcam Pro 9000を使いました。
手元にあったのを使っただけで特別なものではございません(一応レンズはcarl zeissでした!)。
色々な動画編集ソフトがありますが、無料で簡単しかも商用利用可能なMicrosoft標準のClipchampを使いました。「内視鏡・鉗子の挿入の具合が見える全体像」と、「内視鏡の動画」をpicture in pictureで合成して解析してみました。
PinPも無料で簡単にできる時代になりました。すごいもんです。

ClipchampでPicture in Pictureして解析


この日の手術は好酸球性副鼻腔炎で両側共全ての副鼻腔を開放する「内視鏡下鼻・副鼻腔手術Ⅳ型(汎副鼻腔手術)」を行っています。
重症度や解剖学的構造によってかなり手術の難易度が変わりますが、この日の症例は好酸球性副鼻腔炎としては重症例ではなく、手術はやりやすい方でした。

前頭洞を70度で操作している時間

70度内視鏡を使う主な局面は前頭洞(上を見る)だけでなく、上顎洞や眼窩内側壁(横を見る)もあります(その話は前回のブログ参照)。
今回は前頭洞操作の際の動きを検討するのが目的です。
この手術では、
右副鼻腔手術の時間は59分27秒。内、前頭洞付近を70度で操作している時間は10分24秒でした。
左副鼻腔手術の時間は55分27秒。内、前頭洞付近を70度で操作している時間は9分50秒でした。

内視鏡・鉗子の位置は?

鼻の穴を時計に例えて、内視鏡がどの位置に来ているか見てみました。
写真左が内視鏡の位置0時固定。左は9時固定。9時~0時を動きながら操作している時もありました。
70度硬性内視鏡の保持の仕方にご注目。軽~く持ってます

右前頭洞・70度硬性内視鏡の位置と使用時間

内視鏡の位置合計時間 10分24秒(624秒)
0時7分6秒(426秒):68.3%
9時~0時2分55秒(175秒):28.0%
9時0分23秒:3.7%

左前頭洞・70度硬性内視鏡の位置と使用時間

内視鏡の位置合計時間 9分50秒(590秒)
0時9分10秒(550秒):93.2%
9時~0時0分40秒:6.8%
9時0秒:0%

まとめ

今回の症例は前頭洞付近の操作がかなり容易だったといえます。
今回は前頭洞操作の際、いわゆる教科書的な「内視鏡が下・鉗子が上」という局面がありませんでした。
もし「内視鏡が下・鉗子が上」であれば内視鏡の位置は18時、もしくは6時~9時になるかと思われます。
今回の手術においては前頭洞操作全体を通じて「内視鏡が上、鉗子が横~下」で行えました
前回のブログで内視鏡9時、鉗子3時で挿入するのがやりやすいと記載しましたが、内視鏡・鉗子を入れた後は内視鏡の位置をおおむね0時に動かしている事が多いようです。
自分でビデオを見てみてとても意外でした。
内視鏡の位置は9時~0時で操作していることが多いかと想像していましたが、0時での操作の割合は右側は68.3%、左側では93.2%でした。
客観的に見てみないとわからないものです。

1例だけの検討ですのでまだ何も言えません。ちょっと何例か同じような検討をしてみたいと興味を持ちました。
症例・局面によって(教科書的な)「内視鏡が下・鉗子が上」と使うことも多々ありますので、今度はそんな症例で検討してみたいと思います。

そんなこんなで、一体誰が読むんだ?という内容のブログで失礼いたしました。
言いたいことは内視鏡と鉗子がお互い干渉しないように、適切な鉗子を選択して、適切な内視鏡・鉗子の位置で手術を行う事は大変重要かと。
最近、シェーバーシステムを多用しすぎるあまり、鉗子をあまり使わない・うまく使えない術者が増えているという話も耳にします。鉗子操作は手術の仕上がりの美しさ(≒成績)に決定的に重要な技術です。
いろいろな術者の手術を見て、アイデアをもらう事も大事かな。

日々切磋琢磨でございます。

院長 金子敏彦(かねこ としひこ)